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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)3289号 判決 1963年5月27日

原告 文鎮南

右訴訟代理人弁護士 池添勇

被告 池田貞通

右訴訟代理人弁護士 品川澄雄

同 太田稔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、本件不動産に原告の劉芳子に対する貸金債務の担保として抵当権が設定されていたこと、本件不動産につき競売手続開始決定がなされたこと、被告が強制執行の立会を業とする者で、右不動産を金一、二五〇、〇〇〇円で競落し、昭和三四年四月一七日競買申出の保証金一二五、〇〇〇円を納付したこと、被告がかねてから懇意で原告の代理人である浅川文哉弁護士から懇請されて競落により取得すべき右不動産の売却を承諾し、同月二二日右浅川弁護士を通じて原告から保証金相当額の金一二五、〇〇〇円と謝礼金二五、〇〇〇円との交付を受け、保証金の領収証を原告に交付したこと、右競売手続は、その後原告と劉との間に示談が成立し、同年一二月一四日被告の同意の下に競売申立が取り下げられて終了し、その結果被告は納入した保証金一二五、〇〇〇円の還付を受けたことは、いずれも当事者間に争がない。

二、原告は、被告に手交した右保証金相当額金一二五、〇〇〇円は、被告の申出により本件不動産の競買申出の保証金の立替金として被告に交付したもので、競売手続が前示のように取下によつて終了した以上、被告は、右立替金を取得すべき法律上の原因を欠くから、原告にこれを返還すべきものであると主張し、被告は、右金員は謝礼金又は利益金として原告から贈与を受けたものであると主張する。そこで、まず原告の六の主張(別訴事件の判決の参加的効力に関する主張)につき判断することとする。原告が原告と被告浅川文哉との間の当裁判所昭和三六年(ワ)第一、〇九九号事件につき、本訴被告に対し訴訟告知をしたこと、本訴被告が右当事者のいずれにも参加しなかつたこと、右事件で原告が敗訴し、右判決が確定したことは、当裁判所に顕著な事実である。民事訴訟法第七六条第一項によると、当事者は訴訟の係属中参加をすることのできる第三者にその訴訟の告知をすることができるのであるから、原告、被告のいずれも訴訟告知をすることができるのであるが、訴訟告知の主な実益は、告知者が敗訴した場合に被告知者に訴訟進行の拙劣なために敗訴したといわせない点にあつて、敗訴したために第三者から損害賠償等の請求を受けるおそれがあり、又は第三者に対し損害賠償や償還の請求ができる可能性がある場合に後日その第三者との訴訟で、同一の事実や法律関係の存否が係属中の訴訟の判決と反対に認定され、不利益を被ることを防止するにあるのである。本件につき考えるに、原告が敗訴しても、本訴被告に対し損害賠償や償還を求め又は求められる関係を生じないことは、原告の主張からみても明らかであり、本訴被告は、原告を補助するため参加する利害関係を有する者ではなく、若し強いて参加する利害関係があるとすれば、前記事件の被告を補助すべき関係にある者と解すべきである。訴訟告知を受けた者が当該訴訟に参加しなかつた場合にも、民事訴訟法第七八条によりその訴訟の判決の参加的効力を受けるのであるが、右参加的効力は、被参加人となるべき当事者が敗訴した場合に、その当事者の敗訴の理由となつた事由につき、被告知人が拘束され、他日これと異つた主張をなし得なくなるにすぎないものと解すべきである。従つて、前示のように、訴訟告知人である原告と被告知人である被告との間に被参加人、参加人の関係を生ずべき法律上の利害関係の存在しない場合には、原告が前訴で敗訴しても、その敗訴の理由となつた事由は、何ら本訴被告を拘束するものではなく、被告は、右事由と異つた主張を自由にすることができ、裁判所も亦自由に判断することができるものと解すべきである。原告の前記主張は採用できない。

成立に争のない甲第一号証≪中略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。本件不動産につき競売の申立があり、競売手続が進行された結果、昭和三四年四月一七日の競売期日に被告が本件不動産に対し金一、二五〇、〇〇〇円の競買の申出をして競落し、同日右申出の保証金として金一二五、〇〇〇円を納付した。被告は、本件不動産が競売に出ていることを知り調査したところ、右不動産は少くとも金四、〇〇〇、〇〇〇円の価格を有するものであると認めたので、前記のように競落したのである。原告から原告と劉芳子との間の請求異議訴訟事件の依頼を受けていた弁護士浅川文哉は、被告が本件不動産を右のように競落したことを知るとともに、原告から右競落を阻止する方法につき相談を受けた。そこで、同弁護士は、競落許可決定に対しては即時抗告の申立をすること、被告に対する関係では金一五〇、〇〇〇円か金二〇〇、〇〇〇円を捨てる気で被告に競落代金を払い込まぬよう懇請するより外ない旨原告にいつたところ、原告は、これを承諾したので、同弁護士は、原告が被告から本件不動産を買い戻すか又はその他の方法で原告に本件不動産の所有権を回復できるよう協力してもらいたいと被告に交渉した。被告は、本件不動産を自己の住宅にしてもよいと考え、前記のように価値もあつたので競落したのであつたが、かねてから懇意であつた同弁護士からの懇請により、円満解決したら相当の謝礼を貰い受ける約定で同弁護士の申出を承諾した。原告は、同月二一日浅川弁護士に金一五〇、〇〇〇円を交付し、浅川弁護士は、翌二二日被告にこれを交付したが、右金員の内金二五、〇〇〇円は、当面の謝礼金として交付され、残金一二五、〇〇〇円は、形式上一応保証金名義で交付しておくが、将来再競売になれば、被告が納付した前記保証金一二五、〇〇〇円は没収されるから、そのような場合には、その損失補償の趣旨、若し事件が円満に解決し、原告が本件不動産の所有権を確保できたときは、被告の得べかりし利益を失つたことに対する補償及び被告の協力に対する謝礼とする趣旨で交付されたものである。その後本件不動産に対する競落許可決定は確定したが、浅川弁護士の努力により債権者劉芳子との間に原告から劉芳子に金一、六〇〇、〇〇〇円を支払うことにより示談解決し、競落人である被告の同意を得て競売の申立の取下がなされ(この点は当事者間に争がない。)原告は、本件不動産の所有権を確保することができた。被告は、さきに納付した競買申出の保証金一二五、〇〇〇円の取下手続をし、これを取得した。以上の事実を認めることができる。原告本人尋問の結果及び成立に争のない甲第八号証の二の記載中右認定に反する部分は、前掲の証拠に照し信用できないし、他に右認定をくつがえし原告の主張事実、特に原告が被告の申出により本件保証金を立て替え、事件が円満解決の上は被告が原告にこれを返還する旨の約定がなされたことを認めるに足る証拠はない。右認定事実から考えると、浅川弁護士は、前示金一五〇、〇〇〇円を被告に対し謝礼金又は損失補償金として贈与する等の一切の権限を与えられており、同弁護士は、右代理権限に基いて前記金一二五、〇〇〇円を被告に謝礼金として贈与したものであると解するのを相当とする。そうすると、被告の右金員の取得を以て法律上の原因を欠くものと主張し、その返還を求める原告の本訴請求は、爾余の抗弁についての判断をまつまでもなく失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡野幸之助)

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